採用映像の制作で、いちばん多くいただく抵抗感があります。
「自分が映像に出るのは、ちょっと……」
カリスマでもないし、特別な経歴があるわけでもない。話すのが得意なわけでもない。そういう自分が前に出るより、社員や事業の魅力を伝えたほうがいい── そう感じる経営者の方は、本当に多いです。
その気持ちは、よく分かります。でも、私たちが採用ブランディングの現場で見てきたかぎり、経営者自身の自己開示が始まらない会社は、採用がなかなか前に進みません。
1. 「自己開示」がなぜ採用に効くのか
採用は、本質的には「人と人とのマッチング」です。
求職者は、会社というよりも、その会社にいる人たちとマッチングしたいと考えています。
ところが、多くの中小企業の採用情報では、その「人」の輪郭が、まったく見えていません。
社長の顔写真は載っている。簡単なプロフィールも書いてある。
でも、「この人は何を考えていて、どんな経験をしてきて、なぜこの仕事をしているのか」が、まったく伝わってこない。
これでは、求職者は「マッチングしたい相手」を見つけられません。
条件の比較しかできなくなり、結果として給与勝負の世界に引きずり込まれます。
自己開示とは、見栄を張ることでも、自分を大きく見せることでもありません。むしろ逆です。
「ここまでは話せる」「ここからは話せない」「これが苦手」「これが嬉しい」──
そういう、生身の輪郭を見せることです。輪郭が見えた瞬間に、相手も自分の輪郭を持って近づいてこられるようになります。
2. カリスマである必要はない、むしろ逆
「自分はカリスマじゃないから」と躊躇する経営者の方には、いつもこうお伝えしています。
カリスマじゃないほうが、採用には効きます。
カリスマ性で人を集めると、その人たちは「カリスマ的なあなた」についていくために来ます。会社の理念ではなく、リーダーの個人的な魅力で結束した組織は、リーダー個人に何かあった瞬間に崩れます。
一方、自分の弱さも含めて開示できる経営者の周りには、「この人と一緒に、ちゃんと事業をやっていきたい」という、地に足のついた共感が集まります。
彼ら彼女らは、リーダーの存在感ではなく、事業そのものへの共感で動きます。
3. 自己開示は「原体験」から始まる
では、何から開示すればいいのか。
私たちが採用映像のインタビューで最も大切にしているのは、経営者の原体験を聴くことです。
「いちばんしんどかったのは、いつですか」と、正面から問いかけることはしません。
生い立ちのこと、仕事を始めたころのこと、創業のきっかけ。
会話の中でたどっていくと、その途中で、過去の挫折やつまずいた経験に自然と行き当たります。
聴きたいのは、成功の話よりも、
その手前にあった挫折の話。
成功体験は、誰もが語れます。
でも、挫折の体験を語れる経営者は、多くありません。
業績が傾いた時期。離れていった仲間。続けるかどうか悩んだ夜。
こうした経験を、丁寧に言葉にしてもらうと、不思議なことが起きます。
聞いている側に、ぐっと感情が動く。
「ああ、この人は本物だ」「自分も応援したい」と感じる。
これが、自己開示が持つ最大の力です。
こうした原体験から生まれた想いこそが、その会社にしかない魅力、
つまり「世界観」の根っこになります。
4. 開示することの「リスク」と「リターン」
「でも、弱みを見せたら、信用を失うのではないか」──
そう感じる方もいらっしゃいます。
これは半分正しくて、半分間違っています。
正しい部分は、「無防備に何でも開示すればいい」というわけではない、という点です。経営に関する数字、社員のプライバシー、過去のトラブルの当事者の話など、開示すべきでない情報は確実にあります。
ただ、自分の原体験、価値観、過去の挫折、それを乗り越えたときの学び──
こうした自分自身に関することは、開示することのリターンのほうが圧倒的に大きい。
リターンとして得られるのは、「この人のところで働きたい」という、お金では買えない求心力です。
5. 開示は一人ではできない
最後に、ひとつだけ実用的なことを書いておきます。
自己開示は、一人では難しい技術です。
経営者の方が、いきなりカメラの前で「自分の弱さを語ってください」と言われても、ほとんどの方が言葉に詰まります。
整った文章を頭の中で組み立てようとして、本物の言葉が出てこない。
だから、私たちは1〜2時間の対話を、必要な回数だけ重ねます。
雑談のような話から始めて、徐々に深いところに入っていく。
その過程で、「あ、これ話していいんだ」という感覚が経営者の方の中に生まれてくる。自己開示は、本人の意思だけでは始まりません。それを引き出してくれる聞き手と、安全な場が必要です。
まとめ:採用は輪郭から始まる
採用がうまくいかない会社は、しばしば、経営者の輪郭が見えない会社でもあります。
立派な事業はある。実績もある。でも、それを動かしている人の輪郭がない。
求職者は、輪郭のない人のもとには集まりません。
輪郭が見えてはじめて、「この人と一緒にやってみたい」が始まります。