「うちの社長、想いはあるはずなんだけど、聞いてもうまく言葉にならない」「『魅力は?』と聞いても、抽象的な答えしか返ってこない」── 採用ブランディングを進めようとする現場で、本当によく聞く悩みです。
社長は確かに、何かを大切に思って会社をやっている。
でも、その「何か」が言葉になっていない。
だから、求人票にも、HPにも、面接の場でも、伝わる言葉にならない。
1. 「魅力は何ですか?」と聞いても想いは出てこない
社長に「会社の魅力は何ですか?」と聞くと、ほとんどの場合、こう返ってきます。
「アットホームな職場です」「お客さまを大事にしています」「社員に成長してほしいと思っています」── これらの言葉は、間違ってはいません。
でも、多くの会社が、同じことを言います。
だから、求職者には、何も伝わらない。
問題は、社長に想いがないのではなく、「魅力は?」という質問が、抽象的すぎるということです。
人は、抽象的な問いには抽象的に返します。
具体的な想いを引き出すには、もっと「掘る」必要があります。
2. 想いは「原体験」に眠っている
私たちの経験上、社長の本当の想いは、過去のどこかの「原体験」に必ず紐づいています。
子どもの頃に強烈な印象を受けた出来事。
創業前に経験した、大きな失敗や挫折。
「自分は絶対にこうなりたくない」と思った瞬間。
こうした原体験が、その後の価値観をつくり、いまの会社の方針につながっています。だから、原体験まで遡れば、必ずその人にしかない言葉が出てきます。
ただ、そこにたどり着くには、聞き方を変える必要があります。
3. 原体験・価値観・行動指針を、体験談で聴く
私たちのヒアリングには、決まった質問のリストがありません。
「なぜ起業したのですか」「許せないことは何ですか」と、質問をひとつずつ投げることもしません。
自然な会話の中で、私たちが大切に聴いているのは、次の3つです。
1. 原体験 ── いまの考え方の出発点
生い立ちのこと、仕事を始めたころのこと、創業のきっかけ。
過去の挫折やつまずいた経験も含めて、その人の考え方をかたちづくった出来事を聴きます。
2. 価値観 ── 何を大切にし、何を許せないか
原体験から生まれた、その人の判断の基準です。
「儲かるけど、これはやらない」「赤字でも、これは続ける」── そこに、その会社の本質があります。
3. 行動指針 ── 日々の仕事で、どう動いているか
価値観が、実際の仕事の中でどんな行動になっているか。
社員に何を求め、自分は何を守っているのかを聴きます。
そして、この3つを聴くときに欠かせないのが、個人の体験談です。
「そのとき、何があったんですか」「どう感じましたか」と、ひとつの出来事を場面ごとにたどっていく。
体験談として語られた想いは、そのままひとつのストーリーになります。
ストーリーとして語られた想いは、抽象的な「魅力」と違って、聞いた人の記憶に残ります。
具体的なエピソードと一緒に、その会社にしかない想いが浮かび上がってきます。
4. 「誠実」という言葉ができるまで
以前ご一緒した、ある経営者の方の例をお話しします。
最初は「うちの会社の魅力は、誠実さです」と話されていました。
よくある答えです。
でも、会話の中で体験談をたどっていくと、こんなプロセスで言葉が動いていきました。
- 原体験:過去のビジネスで、取引相手に大きな裏切りを受けた経験があった
- 価値観:そのとき感じた悔しさから、「自分は絶対に、同じことを誰にもしない」と心に決めた
- 行動指針:「嘘をつかない、バッドニュースこそ早く伝える」が、譲れない一線だと気づいた
ここまで言語化できると、最後に出てきた言葉は、こうでした。
100%の透明性で、信頼を築く。
最初に言っていた「誠実」と、同じ言葉のように見えて、まったく違います。
具体的な体験に裏打ちされた「誠実」は、求職者の心に届きます。
他社が真似のできない、その会社にしかない言葉になっているからです。
5. 引き出すには「聴くこと」から
こうした聴き方は、テクニックではありません。
社長の想いを、本当に聴こうとするスタンスが、まずあること。
そのうえで、抽象から具体へ、表面から原体験へ、一段ずつ深く降りていくこと。
私たちが採用ブランディングの仕事でいちばん大切にしているのは、この「聴く時間」です。
想いを聴き、中身(軸)を言葉にし、魅力あるカタチにして届ける。
その流れがつながったとき、社長の頭の中にあるものが、はじめて求職者に届く言葉になります。